制限速度が公になっていない道路を運転するようなものだろうか。どの程度の速度を出せば違反に問われるのか分からない。ゆっくり走っているつもりでも、当局の恣意(しい)的な運用により違反の切符を切られるかもしれない
▼中国で、スパイ行為の取り締まり強化に向け改正された「反スパイ法」が施行された。スパイ行為の定義が拡大され、従来の「国家機密」に加え「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品」の提供や窃取も取り締まりの対象になった。だが、具体的にどんな行為が罪に問われるのかは不明確だ
▼本県でも中国とビジネスを展開する企業は多い。その関係者をはじめ、中国在住の日本人や日系企業の間で不安が高まるのは当然だろう。「何をしたら拘束されるのかという最も重要な点が見えない」と動揺する声がある
▼こうした状況を外から見れば、中国の独自性が多様な分野に影を落とす「チャイナリスク」の拡大と映る。外資系企業の多くは中国での事業に慎重になっているという。経済分野での「脱中国」が加速するとの指摘もある
▼日中関係は、これまで「政冷経熱」という言葉で表現されることが多かった。政治の分野では冷え込む一方、経済は相互依存が高まっているという意味だ。しかし、反スパイ法の影響で経済分野の関係も冷え込む可能性がある
▼習近平指導部は体制の安定確保に躍起になっているようだ。一方、そのために経済が地盤沈下するようなら、民心が離れてしまわないだろうか。