県外の人と昼食を囲んでいてナスが話題になった。目の前の弁当に、とろっとしたナスの煮びたしが入っていたからだ。本県は品種が多様であることで知られる

▼作付面積も全国有数。それなのに出荷量の統計を見ると10位にも入らない。本県は自家消費の文化だと言われる。自分たちで食べてしまう。県外では例えば高知県の安芸市が産地だということで「各地のナスを比べてみたい」「ナス漬けに地域色はあるだろうか」と話が膨らんだ

▼人は食に引きつけられる。うまいものを求め世界を旅する人のことをフーディーと呼ぶらしい。美食倶楽部(くらぶ)を主宰する柏原光太郎さんの著書「ニッポン美食立国論」で知った

▼ただの食いしん坊でなく、まれにみる食いしん坊であり、1人前が10万円でも20万円でも気にしない。そうした富裕層を呼び込む美食経済圏の構築を柏原さんは訴え、その一つとして北陸圏域を挙げている

▼本県のワイン、それから富山県の山奥で出合う地方料理、福井県の住宅街に隠れたすし店といったものをつないでいくことを勧めている。フーディーには県の境界線は関係なく、長い旅をする彼らにとっては広域であることが魅力なのだという

▼どこの圏域に属するか定まらないとよく言われる本県こそ、面白い試みができるのかもしれない。東北圏域とつながってみたり、甲信越の連合に加わってみたり。ただし先ほどの著作では、地方に人を引きつけるには交通基盤が大切だと説いている。本県はそこが気がかりか。

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