もともとは特段悪い意味は持たないのに、使い方によって負のイメージをまとう言葉がある。英語の「クラスター」がそうだ。手元の英和辞典は「(花・果実などの)房、かたまり」「(人・動物などの)密集した群れ、集団」と意味を解説している

▼新型ウイルス感染症が世界的に大流行して以降、感染者集団を意味する用語として使われるようになった。学校や医療機関など人が集まる場所であれば、どこでも集団感染が起きる恐れがあり、よく知られる用例となった

▼近ごろは、殺傷能力が高い兵器の名称として使われる機会が多い。「クラスター(集束)弾」である。1発の爆弾から多数の子爆弾が広い範囲にまき散らされる。不発弾が出れば、子どもを含む民間人を長期にわたって危険にさらす

▼非人道性が強いとして国際条約で使用や製造が禁じられている。米国はそんな兵器をウクライナに供与する。難航が指摘されるウクライナの反転攻勢を後押しするためという。米国やロシア、ウクライナは条約に加盟していない

▼米国はこれまで、ロシアによるクラスター弾使用を問題視してきた。「戦争犯罪の可能性がある」と非難していた。それが一転して、ウクライナを支えるために苦渋の決断をしたという。人権団体はもとより、米国の同盟国の中にも懸念の声がある

▼敵を打ち破るためにはやむを得ない-。そんな理屈が振り回されて戦火がエスカレートしていくのが戦争の歴史と言っていい。戦争の罪深さを、ここにも見る。

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