「アチョー!」。ブルース・リーの甲高い雄たけびを聞くと、全身に力が湧いてきた。俳優であり武道家でもあった。カンフー映画で一世を風靡(ふうび)し、史上最高のアクションスターと言われた
▼32歳の若さで亡くなってから20日で50年。「ドラゴン危機一発」や「ドラゴン怒りの鉄拳」が日本で公開された頃は、既にこの世の人ではなかった。それを知ったのは、ずっと後のことだ
▼映画を見て、リーの強さに少しでも近づこうとヌンチャクを振り回した。新聞紙を丸めてビニールテープでぐるぐる巻いたのを二つ作り、ひもでつないだお粗末なものだったが
▼リーの短い人生は映画同様、いつも闘っていたように思える。育った香港では統治していた裕福な英国人社会と。米ハリウッドでは東洋人への差別的な扱いと。こうした環境の中で肉体を鍛え、人生を切り開いた不屈の精神も魅力の一つだ
▼今なお存命なら、香港の現状に映画のシーンのように拳を握って怒りの表情を見せるのではないか。高度の自治を認めた「一国二制度」は形骸化した。民主化運動は弾圧され、リーが発展させた香港映画も検閲が強化された
▼「友よ、水になれ」。哲学も学んだリーのこの言葉は2019年の民主化運動の合言葉になった。水は自在に形を変え、激流になれば岩をも砕く。自由を認めない岩盤のような支配もいつかは砕けると信じたい。民主主義の価値とは-。彼に尋ねたなら、あの有名なせりふが返ってくるかもしれない。「考えるな、感じろ」