梅雨明けの空に、セミの声が鳴り渡る。炎天下に響く大音量はやかましくもあり、夏の風物詩でもある。生き物の活力を象徴しているようでもある

▼アブラゼミが羽化する様子を観察したことがある。日がとっぷり暮れたころ、木の幹に登った幼虫の背が割れ、まだ乳白色の成虫が姿を現す。羽など体の一部はヒスイのような淡い緑色。どこか弱々しかった体は時間がたつにつれしっかりし、体色も見慣れた茶色に変わっていった

▼「蛍二十日に蝉(せみ)三日」という。いずれの虫も羽化してから生きられる時間はこの程度で、物事の盛りの短いことやはかないことを例える言葉のようだ。羽化したばかりのセミの先行きの短さを思い、少し切なく感じたのを思い出す

▼セミが地上に出てから生きられるのは1週間程度と言われてきたが、実はそこまで短命でもないらしい。外敵に襲われなければ、3週間から1カ月は生きるという。短命と思われたのは、飼育下ではすぐ死んでしまうからとみられる(青春文庫「残念な理系の常識」)

▼これまで考えられてきたよりも、彼らが生きる夏は長いようだ。ただ、長いと言ってもせいぜい1カ月。命尽きる日まで懸命に鳴き続ける姿を思えば「がんばれよ」と応援の言葉の一つもかけたくなる

▼年を重ねると、夏の訪れにため息をつくようになった。以前は暑さをむしろ歓迎していた気もするのだが。少しはセミを見習ってみるとするか。健康面には配慮しつつ、まぶしい季節の楽しみ方を探してみたい。

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