今どきはスマホが観光案内をしてくれる。そんな時でも、隣の団体からガイドの声が耳に入ることもある。要点を突いた解説や、笑いを呼ぶ面白エピソード…。個性的なガイドとの出会いは、旅の大きな思い出になることがある
▼佐渡市の相川地区を、住民による「ふれあいガイド」と回った。史跡佐渡金山や周辺は何度も訪れた場所だったが、ガイドのおかげで新たな発見があった
▼坑道の電動人形が口にするせりふについてだ。「早く外に出て酒を飲みてえ。なじみの女にも会いてえなあ」。お土産のシャツにプリントされるほど有名なこのせりふは、鉱山労働の過酷さを表す言葉と思っていた
▼しかし、この労働者は比較的待遇がいい役職で、4時間の交代勤務だったという。髪型は江戸時代中期に流行した「本多まげ」。おしゃれに気を使えた労働者がいたとは意外だった
▼金山周辺の風情ある町並みを散策しながら、こんなことも教わった。落とし物などを素知らぬ顔でわがものにする「猫ばば」は猫が砂をかけてふんを隠すことが由来とされるが、金を選別する「ねこ流し」という作業の際に横領を監視した役職「ねこ婆(ばば)」が語源になったとの説もあるそうだ
▼佐渡奉行所が復元された場所は、かつて相川中学校があった。ガイドの一人が言った。「あの辺がグラウンド。私は野球をしてました」。歴史あるこの地に脈々と続く、暮らしの息遣いが伝わってきた。地元愛にあふれた彼らの語り口も、佐渡観光の名物になってほしい。