東北なまりが優しげだった無着成恭さんが96歳で亡くなった。山形の中学校で続けた「生活つづり方運動」は戦後民主教育の象徴とされた。なぜ貧しいのか。粗末な食事や暮らしを包み隠さず、みんなで書いた。そこから助け合いの知恵を出し合った
▼筆者は小中学校の頃、作文が大嫌いだった。夏休みの宿題の絵日記や読書感想文は休み最終日まで書けず、泣きながら始末したのを思い出す
▼そんな夏休みの助け船か。先日の本紙で45歳の芥川賞作家、津村記久子さんが作文の書き方を教えていた。飾らず、感じたままを書くのが面白い文章を書くコツという。「文章が書けると何がいいか。自分を知る手がかりになります」。無着先生と同じ作文の効用を説いていた
▼今年の夏休みは作文や日記のネタに恵まれそうだ。社会を揺るがした感染症の5類移行で多くの夏祭りが4年ぶりに完全復活する。家族旅行も増えそうだ。絵日記もマスク顔が少なくなる
▼最近は文章や絵、音楽まで作るチャットGPTなどの人工知能(AI)が話題だ。小学生の絵日記などの宿題はAIに丸投げできそうだが、文部科学省の指針に照らせば、これは不正行為に当たる
▼仮に許されるとしても、AIを思い通りに働かせるには、正確な文章で指示する必要がある。いつ、どこで、何を…。その状況や自らの思いも含め、指示の具体性や深みがAIの成果を左右する。皮肉にも、AIへの指示も作文力が問われる。魔法のつえは楽をして手にできないようだ。