毎年8月15日になるとこの人の言葉を聞きたくなる。旧制長岡中学出身で「歴史探偵」の異名を持つ作家の半藤一利さんだ。ご本人は一昨年に亡くなっているので、同僚記者によるインタビューをまとめたブックレット「半藤一利の遺言」を開いた

▼終戦は長岡で迎えた。「これでもう誰も死ななくていいんだ」と心の底から思ったという。東京大空襲では多くの死を目の当たりにし、二度と「絶対」という言葉を使うまいと誓った。「絶対に日本は勝つ」「絶対に焼夷(しょうい)弾は消せる」…。周囲にあふれる「絶対」は全てうそだと痛感した

▼あの戦争がなぜ起きたのかを掘り下げることがライフワークだった。たどり着いた思いがある。「この国を守るという考えはいいですけど、戦前のような大国主義になってはいけません」

▼軍備を拡張したとしても、海岸線が長い日本は地政学的に守りやすい国、守れる国ではない。海岸部には現在、本県の柏崎刈羽をはじめ多くの原発があり、さらに守りづらくなっている

▼では、どうしたらいいのか。もともと守れないのだから、できるだけ平和を大切にして、貿易によって生き延びる戦略が最も現実的だ。理想主義ではなく、リアリズムに徹したからこその結論だった

▼戦争や滅びの道を選ばないように歴史を学ばねば。人間の英知と愚昧(ぐまい)が詰まったのが歴史である。「歴史は繰り返す」のではなく、同じような行動を繰り返しているのは人間だ-。「昭和の語り部」が残した言葉は年々重みを増す。

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