「強震に次ぐに大火災起り 帝都は無前の大惨害発生」。ちょうど100年前のきょう、関東大震災が発生した。本紙の前身の一つ「新潟毎日新聞」は翌2日付号外にこうした見出しで第1報を載せた
▼ただ通信手段は隔絶しており、当初は被災地を直接取材できなかった。ほとんどの記事は冒頭に(長野電話)(静岡電話)といったクレジットを添え、被災地周辺から電話で寄せられた情報を伝えた。その情報も伝聞や風説が中心だった
▼そんな中、4日付朝刊には震災報道に関する社の方針を掲載した。事実の正確性を保証できない記事も多いため、情報を慎重に吟味し、根拠がなければ掲載を留保するとした
▼一方、同日付の号外には朝鮮人が略奪や放火を働いたなど、流言を基にした記事が載った。流言は被災者の不安をあおり、住民が自警団を組織して朝鮮人や中国人を暴行したり殺害したりする事件が起きた
▼千葉県の福田村(現野田市)では朝鮮人と疑われた香川県の行商団が殺害された。今月公開の映画「福田村事件」は史実を基に、不安にかられた普通の人が集団化し残虐な行為に及ぶ姿を描く。手がけたのは中学、高校時代を新潟市で過ごした森達也監督だ
▼震災を報じた新聞は、阿賀野市の吉田東伍記念博物館で開催中の企画展で閲覧できる。「福田村事件」は県内では9日から上映される。偽情報に惑わされると、時に人は重大な事態を引き起こす。紙面も映画も、人間のそんな宿痾(しゅくあ)を胸に刻む手がかりになるはずだ。