佐渡の祖父母を訪ねるため、子供の頃からよく船に乗った。40年ほど前のフェリーは今より小型で快適性も低かった。甲板の手すりは潮の匂いが染みつき、触るとべたついた。けれど、そこからは船の軌跡が眺められた。白く波立つ様子は子ども心に新鮮で、飽きずに眺め続けた

▼古い記憶を思い起こしたのは、佐渡汽船を彩った、歴代の船の模型を目にしたからだ。佐渡市の佐渡歴史伝説館に展示されている。同社は長年、複数の船を運航しているが、中でも筆頭格のフラッグシップには「おけさ」の名が与えられるという

▼「おけさ丸は代々特別な船」。山中一秀館長はこう話す。初代は船会社3社が合併した1932年、新たな期待を背負って就航した。昭和天皇の来島に合わせて64年に導入されたのが2代目だ

▼3代目は、米ボーイング社から77年に国内で初めて導入した高速船ジェットフォイルに命名され「おけさ」を名乗った。93年に就航した現在のカーフェリーが4代目だ

▼夏休み中には、子供たちにおけさ丸を知ってもらう関連イベントも開かれた。港に固定するロープは何本かという難関クイズに対し「前3本、後ろ2本」と正答した“船博士”もいた

▼以前に比べると、今のフェリーはずいぶん乗り心地が良くなった。乗船中は室内で過ごすことが増えていたが、ウイルス禍以降は天候さえ許せば甲板に足が向くようになった。カモメが追いかけてくる。海風が心地いい。船での移動には、ほかの乗り物にはない趣がある。

朗読日報抄とは?