米国のフォード社が1908年に発売したT型フォードは、流れ作業の大量生産で自動車の大衆化に貢献した車種として知られる。一時は地球上を走る車の半分がこの車だったという
▼そんな人気車が市場から消えることになった要因の一つは、根本的なモデルチェンジをしなかったことだ。質実剛健の仕様が当初は消費者の圧倒的な支持を集めたが、次第に豪華な装備や斬新なデザインの他社製品が存在感を増した。他社はモデルチェンジを重ねることで、購買意欲を高める戦略も採った
▼目新しいものに魅力を感じる人は多いのだろう。現代でも、モデルチェンジは自動車を含む、多くの工業製品の重要な販売戦略になっている。政界も同様だろうか。内閣改造は時の政権にとって、いわばモデルチェンジといえる
▼もっとも、きのうの人事は自民党幹部にせよ閣僚にせよ、主要な役職で留任が目立った。それなりの深謀遠慮はあったのかもしれないが、政権を支える大枠は変わっていないという。車ならばフルモデルチェンジではなく、マイナーチェンジといった程度のようだ
▼世間の耳目を集め、政権を浮揚させる効果はどの程度か。福島第1原発の処理水を「汚染水」と呼んだ農相の首をすげ替える程度の効果しかないとしたら、何とも寂しい
▼人事の際の決まり文句は「適材適所」だが、前内閣では不祥事などで閣僚の辞任が相次いだ。車のモデルチェンジも内容が伴わなければ消費者にそっぽを向かれる。内閣の方はどうだろう。