佐渡沖で「キングギドラ」が発見された、と書くとミスリードだろう。正確には、体が枝分かれした珍しい生き物が現地で見つかり、映画のゴジラシリーズに登場する怪獣・キングギドラにちなんだ名を与えられた

▼キングギドラは三つの頭と2本の尾を持つ。佐渡沖で発見されたのはゴカイやミミズの仲間で、頭は一つだが体の幹の部分が複雑に分岐している。新潟大などの国際研究チームによって「キングギドラシリス」と命名されたと紙面で読んだ

▼体が枝分かれしているといえば、伝説に登場する「九尾の狐(きつね)」もそうだ。中国やインド、日本を股に掛け、美女に化けて悪事を働いた。日本で退治され石と化すも、なお妖気をまとい、近づくものに害をなした

▼「殺生石」と呼ばれるようになった九尾の狐を成仏させたのは、玄翁という僧と伝えられる。現在の弥彦村あたりの生まれという。玄翁は手にした鉄槌(てっつい)で石を粉々にくだき、ここから金づちの呼び名「げんのう」が生まれたとされる

▼悪事を働いた九尾の狐は、世界を股に掛けてまん延する新型ウイルスにも通じる部分がある。変異を繰り返し、感染力を強めるなどして収束の兆しが見えない。人間はなかなか制圧できないでいる

▼こうなると、玄翁が現代によみがえってくれないものかという思いが頭をもたげてくる。一向に鎮まらず、人に害を与え続ける感染症に鉄槌を下してはくれまいか。この際、キングギドラでもゴジラでもいい。ウイルス退治に力を貸してください。

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