人気ミュージカル「アニー」は、赤毛の孤児の女の子が両親が迎えにくると信じて前向きに生きる姿を描く。先月、新潟市での公演を見た

▼舞台は大恐慌時代の米ニューヨーク。アニーは孤児院を抜け出し、うらぶれた地域を訪れる。家も仕事も失った大人たちが、かつての日常を懐かしがり、冷え込んだ景気を嘆いていた。「バカンスへ行ったのが遠い昔のよう」「リンゴを街に売りに行っても買うお金がある人がいない」といった具合だ

▼背景は違うが、ガソリンの給油の際に「少し前まで160円台だったのに」とため息をつく自分と重なった。本県では7月に170円台を突破。全国平均小売価格は、9月初旬には186円50銭と最高値を更新した。その後は小幅に下落したが、まだ高い

▼新型ウイルス禍での経済活動停滞や、ロシアによるウクライナ侵攻などを機に、ガソリン以外の物価高も進む。数年後、ミュージカルの場面のように、経済情勢がさらに悪化していないことを願った

▼舞台では、アニーは何と大統領と面会。彼女の明るさに触発され、大統領は積極的な公共事業などで失業者に仕事を与え、景気回復につなげる「ニューディール政策」を発案した。突拍子もないようだが、小気味よかった

▼アニーが「朝がくれば、いいことがある」と歌う「トゥモロー」はよく知られた曲だ。ニューディール政策が現代に適するとは思わないが、この曲は今の社会に漂う不安感も晴らしてくれそうで、気がつけば口ずさんでいる。

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