江戸時代の文人、大田南畝(なんぽ)は狂歌の大家として一時代を築き、洒落(しゃれ)本や滑稽本の作者としても知られた。「寝惚(ねぼけ)先生」などのペンネームでユーモアあふれる作品を数多く発表した

▼江戸の市民文化の中心的な存在で、越後を訪れたこともあった。現在の新潟市西区には、南畝の筆による書が残されている(「越後赤塚」第29号)。文化全般に通じた才能の持ち主だったが、本業は下級の幕臣。文化活動はいわば副業だった

▼南畝が生きた時代から200年余り。現代の政府は、副業を促進する旗を振る。多様な働き方を実現するとともに、成長分野への労働移動を促して、経済全体を活性化する狙いがあるという

▼兼業禁止の規定がある会社が多かったサラリーマンの世界でも変化が起きている。第四北越銀行は今春、従業員の副業を認める制度を導入した。スポーツの指導やイベント支援などに副業として取り組む人がいる

▼先日の本紙に、こんな記事が載った。総務省の2022年就業構造基本調査を分析すると、本業の所得の中間層に比べて、所得の高い層と低い層で副業をする人の割合が大きくなっていた。高所得層は、高度で専門的な知識を生かして副業をする人が多いという

▼気になるのは低所得層だ。生活苦でアルバイトなどを掛け持ちせざるを得ない人がいる。働きづめの暮らしである。江戸時代の下級武士も傘張りなどの副業で糊口(ここう)をしのいだというけれど、令和の世になっても、ゆとりのある暮らしが実現していないとは。

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