〈すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利とについて平等である〉。人権を端的に、そして格調高く説明した言葉だ。世界人権宣言の第1条である

▼1948年の国連総会で宣言が採択されて75年になる。旧制長岡中学出身の作家、半藤一利さんは自身の原稿にこの言葉を引きながら「写しとっているだけで、なんとすばらしい言葉かと感動をすらおぼえる」と記した

▼一方で、ため息が漏れる。75年を経てもなお世界はこの精神を実現できていない。最大の人権侵害とされる戦争といまだに決別できないでいる。ウクライナだけではない。自国民保護や安全保障の名の下に、どれだけの血が流されたのだろう

▼差別されたり自由を奪われたりして、抑圧を受ける人が数多くいる。人としての当たり前の権利を得るため、人権侵害に立ち向かわなくてはならない現実がある。国によっては声を上げるのも命懸けだ

▼ことしのノーベル平和賞に選ばれたのも迫害を受けながら戦う人権活動家である。イランで女性の権利拡大などを訴え続けている。その活動が罪に問われ、現在も投獄されているという

▼人間は自分とは異なる価値観をなかなか認められない生き物なのか。しかし世界人権宣言は、そうした姿勢から脱却するよう訴える。冒頭で紹介した第1条は、続けて次のようにうたう。〈人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない〉。崇高な誓いだ。道半ばであるが。

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