「帰還」という言葉はどこか重々しさを伴う。単に「帰る」「戻る」にとどまらず、辞書によれば、特に戦地や外地、長旅から戻ることを意味する

▼米国版「はやぶさ」と呼ばれる探査機のカプセルが先ごろ地球に帰還した。荒野のような宇宙を7年間も旅し、小惑星ベンヌから石などの試料を持ち帰った。困難な任務から、まさに帰還したと呼ぶにふさわしい

▼日米は今回の試料を、日本の「はやぶさ2」が小惑星りゅうぐうから持ち帰った石などとともに分析する。惑星形成の歴史や、地球の生命の起源を読み解く手掛かりが見つかるのではと期待される

▼りゅうぐうの試料には生命に不可欠なタンパク質の材料となるアミノ酸や液体の水が含まれていた。今後ベンヌの石でも水やアミノ酸が見つかり、地球由来のものと特徴が似ていれば、その起源は小惑星にあった可能性が高まる。水をはじめ、生命を育む環境の成り立ちが解明されるかもしれない

▼「地球を離れてみないと、われわれが地球で持っているものが何であるのか、本当のところはよく分からないものだ」。1970年、重大事故を乗り越えて地上に生還したアポロ13号のジム・ラベル船長はこう述べた(立花隆「宇宙からの帰還」)。人間が生きていける環境のありがたさを実感した言葉だろう

▼宇宙由来の試料によって地球環境の起源が明らかになるなら、今回の探査機の任務にも当てはまる言葉ではないか。日米の探査機が帰還できたことの重みを、いっそう感じる。

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