「歴史的な握手」のはずだった。1993年9月、長く敵対してきたイスラエルのラビン首相とパレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長が互いの手を握った

▼双方の共存を目指す交渉開始に合意した「パレスチナ暫定自治宣言」の調印式の場面だ。ノルウェーの首都オスロでの協議を経て調印に至ったことから「オスロ合意」とも呼ばれる。今秋は調印から30年の節目に当たる

▼宣言に基づく交渉は進展しなかった。合意の立役者だったラビン氏は極右のユダヤ人青年に銃撃され、命を落とした。襲撃や軍事衝突も相次ぎ、和平は破綻した。再び暗雲に覆われたパレスチナ問題に今、また一つ戦乱の火柱が上がった

▼パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、おびただしい数のロケット弾を打ち込んだ。イスラエル領内に侵入した戦闘員は、市民を殺害したり人質として連れ去ったりしたらしい

▼その様子を撮影した動画を見た。体に戦慄(せんりつ)が走るのを感じた。ハマスの攻撃の背景には国際社会がパレスチナ問題を棚上げしようとしていることへの焦りがあるとされる。しかし、どんな理由であれ残虐行為が許されるはずもない。同胞をイスラエルの反撃にさらす行為でもある

▼同じ中東のアフガニスタンでは地震で多数の犠牲者が出た。人間はまだ、自然災害による理不尽な死を完全に免れるすべを持たない。一方で戦争は人間の行為である。30年前の和平は破綻したとはいえ、双方に最大限の自制を求めなければ。

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