番付が低くても地元のお相撲さんをひいきにする好角家は多い。昔の人は「江戸の大関より土地の三段目」と言った。ご当地との結び付きの強さを表す

▼出身の意味を辞書で引くと、その土地の生まれや学校の卒業生、団体の所属であることとあった。厳密な定義はないらしい。産声を上げた所か、長く住んだ地か。どれを選ぶかは各自に委ねられている。角界では出身地を変える人もいる

▼ほんのわずかな滞在で熊本出身と名乗るようなものだろう。かつてアサリの一大産地だった熊本県が揺れている。海外で取れたものでも、日本の海で育てる期間の方が長ければ国産と表示できる。このルールが悪用された

▼熊本産のほとんどに外国産が混入していた可能性が高いというから開いた口がふさがらない。県は県産の生鮮アサリの出荷を当分の間とりやめた。熊本を経由すらせずに流通していたと疑われる品もあるそうだ。問題の根は相当深い

▼産地にはいい迷惑だが裏返せばそれだけブランド力がある証左でもある。コメ王国の本県関係でも過去には他県のコシヒカリが魚沼コシとして売られた。本県ブランドの「新之助」の袋で別品種入りのコメを売ろうとした業者も摘発されている

▼産地の表示は価格などに大きな影響を及ぼす。人間の出身地のように、あいまいでは困る。ついこの間まで熊本産が並んでいたスーパーのアサリは軒並み中国産に変わっていた。地元だけでなく全国的に知られた「土地の横綱」のこれからが気に掛かる。

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