〈湯豆腐の始めの日なり風吹いて〉青山丈。なぜだか、無性に食べたくなる季節の一品があるようだ。「湯豆腐」は冬の季語だから、ブルブルッと寒い晩に、かん酒をお供にいただくイメージがある

▼季語を先取りし、土鍋をグツグツさせて湯豆腐を食べた。薬味のネギはやせ細り、例年よりだいぶ高値になっている。昆布としょうゆ、かつお節くらいで楽しめる手軽な鍋料理はあまりなかろう

▼なぜ食べたくなったのか。空前の酷暑だった8、9月から、10月に入ると急に涼しく、いや寒くなったと感じたからだ。寒暖差が大きい。新潟地方気象台では、秋の使者であるススキの標本木が暑さと少雨で枯れてしまい、開花が観測できない異変が起きた

▼新潟市中央区の10月上旬は雨続き。平均気温が17、18度台で平年を下回る日も目立った。これなら湯豆腐だけでなく、冬布団や暖房が欲しくなるのもうなずける

▼鍋物のスープの宣伝がテレビやチラシで増えている。自動販売機でも温かいお茶や缶コーヒーが並び始めた。一方で寒候期予報は暖冬傾向を伝えている。そうなると冬に冷ややっこが食べたくなるかもしれない。それほど「観測史上初めて」が頻発する異常気象の時代だ

▼「万事豆腐」なる言葉がある。この食材はどんな鍋物にも合い、欠かせない存在だ。だからどんな環境にも適応できる順応性を持てという教えらしい。打つ手なしの「万事休す」の前に、季節や世相の急な移ろいにもさらりと対応できる心構えが必要なのか。

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