「仁義礼智信」の五つの徳は儒教では恒常不変の道とされる。「五常」と呼ばれる。これらを踏まえた人生訓もある。五つの徳について、それぞれ「仁に過ぎれば弱くなる」「義に過ぎれば固くなる」などと説く

▼人を大切にすることは必要だが程度が過ぎると互いのためにならない、正義を重んじる心も行き過ぎると柔軟さが失われる、といった意味だという。五つの徳は尊い一方で「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言いたいようだ

▼俗に戦国武将である伊達政宗の遺訓とも伝わるが、どうも根拠は薄いらしい。ただ、多くの人がうなずける要素があったからこそ、広く世間に知られるようになったのだろう

▼これに倣うと「人出が過ぎれば厄になる」といったところか。過剰な数の観光客が訪れ、住民の生活や地域の自然に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」だ。観光業がウイルス禍前の水準を取り戻すにつれ、各地でこうした問題が浮上している

▼観光客がごみのポイ捨てをする。車道に飛び出したり、田畑に踏み込んだりしてカメラを構える…。こんな振る舞いをされては、もてなしの心も発揮できない。悪意がなくても、渋滞や混雑が日常になれば、地元の暮らしは大きな影響を受ける

▼金山の世界遺産登録を目指す佐渡でも、懸念する声がある。他の観光地では対策として、立ち寄りにお金を徴収したり地域貢献活動を義務づけたりする動きがあるという。地元とお客が「いい関係」を築くため何が必要か。知恵を絞らねば。

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