江戸川乱歩は30歳で職業作家になるまで、職を転々とした。大学卒業後に商社に勤めたが1年もたたないうちに飽きてしまい、その後タイプライター販売員や造船所の社員に転身した。古本屋を開業したり、ラーメンの屋台を引いたこともあった

▼「朝起きて弁当もって、ちゃんと定時間勤めて帰るという事が、非常に向かないです」。後の対談で、こう振り返った。学生時代のアルバイトも含めると20近い職場を経験したという

▼フライドチキンの世界的なチェーン店を創業したカーネル・サンダースも転職を繰り返した。経験したのは鉄道会社の従業員や弁護士、保険の外交員など。仕事には真面目に取り組んだが、物事に妥協できずに周囲とよく衝突したらしい

▼著名人の転職にまつわる逸話を思い出したのは、絵本作家の西内ミナミさんの訃報に接したからだ。文章を執筆した「ぐるんぱのようちえん」はベストセラーとなった。大きなゾウの「ぐるんぱ」が働きに出るが、行く先々で失敗する

▼ビスケット屋、皿作り、靴屋にピアノ工場、自動車工場…どの職場でも、売り物にならない特大サイズの物を作ってしまう。何度もクビになり、しょんぼりするぐるんぱだったが、ひょんなことから幼稚園を開くことになり…

▼詳しくは作品を読んでもらうとして、多くの人に力を与える物語だ。人を測る物差しは一つではなく、別の物差しで測れば違う姿が見えてくる。そんなことを教わった。これからもきっと読み継がれていくはずだ。

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