草花に傾ける情熱は、朝ドラのモデルで有名になったあの植物学者にも引けを取らないだろう。長岡市西部にある「雪国植物園」園長の大原久治さん(89)。荒れ地を切り開き、大勢が訪れる場所に育て上げた
▼会社社長だった50歳のとき、近くの里山の山野草に魅せられた。図鑑を手に山歩きを重ねるうち、荒廃した自然を放っておけなくなる。たどり着いたのが、放置され人が寄りつかなくなった森を植物園にして守る構想だった
▼土地購入を市に訴え、友人や企業を回って造園費を捻出した。覚悟を示すため趣味の釣りもテニスもやめた。ゴルフ会員権も売って苗の代金に充てた。大原さんに共感し、汗を流したボランティアは延べ数千人に上る
▼やぶを切り開いて倒木を除き、道を作って苗を植える。外来種や園芸品種ではなく、県内に自生する草木だけを植えた。農薬は使わない。気の遠くなる作業を11年続け開園にこぎ着けた。その後も大雪や水害に見舞われ、病害虫にも悩まされた
▼今では広さ35ヘクタールの園内に872種の植物が確認される。光や風を通すため、巨木の伐採にも着手した。「数を増やして喜んでいては駄目。理想の姿を考えるのが私の仕事。引き算も大事なんです」
▼自然相手の営みに終わりはないが、自身の90歳の節目に合わせ、2025年春に区切りの完工式を行う予定だ。着想から40年、こつこつ増やしてきた原種の桜3千本が全て咲きそろうのが、その頃という。どれほど見事な眺めだろう。何とも楽しみだ。