自民党が単独政権を維持していた頃、党の税制調査会は絶大な力を誇った。税制通の長老格議員が「インナー」と呼ばれる幹部会を構成し、議論を取り仕切った。党総裁、すなわち首相もうかつには口を出せないと言われた
▼「密室政治」の最たるものと言えたが、外部からの干渉を排して複雑な税制を議論できる側面もあった。税制を誰かに有利にすると、別の誰かに不利になる可能性がある。目先の利益に目がくらめば、有権者からしっぺ返しを食らう恐れもあった
▼長くインナーの一員を務めた、本県出身の村山達雄元蔵相の言葉を思い出す。「数多くの税を組み合わせてトータルなバランスで税制を論じる必要がある」と強調していた。そして一言。「感情的になられると、税の話はできんな」
▼近年は「密室」批判もあり、以前ほどの存在感は薄れた。ここへ来て浮上した所得税減税は岸田文雄首相が発信源だ。ただ、首相が打ち上げた減税の背景には政権浮揚につなげたいという思惑がちらつく。防衛力強化のための増税が控えており、ちぐはぐ感も否めない
▼減税は政権をアピールする材料になりそうだが、過去を振り返ると必ずしもそうなってはいない。1998年参院選を前に、橋本龍太郎首相の減税を巡る発言が迷走し、退陣に直結したのがいい例だ
▼本紙客員論説委員の後藤謙次さんは先日の紙面で「減税の罠(わな)」に多くのリーダーが足をとられたと指摘した。昨今の減税論議を泉下の村山さんが見たら、何と言うだろう。