一年に一回しか食べられないチョコレートの方が、毎日食べるケーキよりおいしい。直木賞作家で阪神ファンの北村薫さんが2003年、雑誌のエッセーでめったに経験できない優勝の喜びについて持論を展開していた

▼この年、チームはセ・リーグの頂点に立つ。初めて味わう人はもちろん、北村さんも18年ぶりのチョコの味に涙した。本紙も「待ち続けたこの瞬間」「甲子園に地鳴り」などの見出しで伝えている

▼05年のリーグも制し、14年は2位ながら日本シリーズに駒を進めたものの、あと一歩が及ばない。プロ野球が2リーグに分かれて以降、阪神の日本一は1985年の1度きりである。90年近い歴史のある「名門」にしては寂しい

▼日本一の後には下位に低迷する「暗黒時代」もあった。それでもファンは見捨てない。チームの魅力をあれこれと探しだす。かくして負け惜しみや屁(へ)理屈に磨きがかかっていく。「出来の悪い子ほどかわいい」「常勝球団を応援してどこが面白いのか」というように

▼そんな阪神が、明日からパ・リーグ3連覇のオリックスと覇を争う。よもや、今から関西シリーズに敗れた言い訳を考えているファンはいるまい。本県出身の虎党で知られる俳優の渡辺謙さんと漫画家の高橋留美子さんも、大願成就の時を待つ

▼関西では、岡田彰布監督が試合中になめるパインアメが売れているという。2度目の日本一の感激を何としても味わいたい。チョコならぬ、アメを口にしながら祈る人もいるに違いない。

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