映画監督の樋口真嗣さんはガメラなど多くの特撮映画に携わり、監督を務めた「シン・ゴジラ」(2016年)は日本アカデミー賞に輝いた。しかし元々はゴジラの監督をしたいとは思っていなかった。「ゴジラにかけられた呪い」がその理由だ
▼1954年に公開された第1作のゴジラは水爆実験によって生まれた設定だった。広島と長崎の被爆から10年もたたず、その恐怖が身近だっただけに、ゴジラと核は強く結びついた。あの怪獣について回る核のイメージは、新たな作品を創作する表現者にとって、呪いのように窮屈な存在でもあった
▼樋口さんは東京電力福島第1原発事故後の社会を鋭く描く一方、ゴジラが登場するシーンには特撮映画の魅力を詰め込んだ。核というテーマは引き継ぎつつ、社会性と娯楽性を徹底的に追求した
▼11月には、別の監督によるゴジラ生誕70年記念作が公開される。舞台は終戦から間もない東京という。焦土の中で生きる人々が、さらなる苦難に立ち向かう姿が描かれるようだ
▼ゴジラが現れる焼け野原を、ウクライナやパレスチナ自治区ガザの荒廃した姿と重ね合わせる人もいるかもしれない。核の悲劇も戦争の産物である。この怪獣の周囲にはやはり、人類の愚行がつきまとうのか
▼第1作のラストシーン。人間が核兵器を手放さないなら第2、第3のゴジラが現れる-。登場人物の一人は、こう語る。世界から核や戦争がなくならない限り、呪いは解けないとしたらゴジラが自由になる日は遠い。