障害物のない、平らな場所でつまずくことがよくある。筋力が衰えたようだ。以前と同様に脚を運んだつもりでも、つま先はさほど上がっておらず地面に引っかかる

▼今秋、子どもの運動会に参加した人もいるだろう。オムロンヘルスケアの調査では、競技に参加した父親の11・6%が転んだり、けがをしたりしたことがあると答えた。頭の中では若い頃と同じように走っているつもりでも、年齢を重ねた体はついてこない

▼とかく人は、自分が充実していた頃のイメージを持ち続けたいのかもしれない。「昔はよかった」などと言ってしまうのもその類だろうか。思い出や郷愁に浸るのは悪いことではないが、こだわり過ぎると現実に目隠しをしてしまう

▼日本の国際的な地位低下が指摘されて久しい。2023年の名目国内総生産(GDP)は世界3位から4位に転落する見通しという。スイスの研究機関が発表した23年版世界競争力ランキングでは35位と過去最低だった。ランクの発表が始まった1989年から4年間は首位だったが、その後は低落傾向が続く。「昔はよかった」と言いたくなるのは、年を取った証拠だろう

▼一方、英国の教育データ機関がまとめた最新の世界大学ランキングでは、東京大が前年の39位から29位にアップするなど、順位を上げる日本勢が目立った。学問の領域では、復活の兆しもある

▼まずは現実をしっかり把握せねばなるまい。過去の成功体験の押しつけは迷惑なだけだ。とりわけ若い人にとっては。

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