通勤バスの乗客は7割方がスマホに見入っていた。窓の外をボーッと眺めている人は多くない。まして、本を読んでいる方は1人か2人いるかどうか
▼今月9日までの2週間は77回目の「読書週間」だ。残念だが本を読む人が減り、街の書店も数を減らしている。文部科学省が先日発表した2022年の「21世紀出生児縦断調査」では、21歳の若者の6割が1カ月間に紙の本を全く読んでいなかった
▼背景にはインターネットの普及がある。NHKの調べでは、20歳以下はテレビよりネット利用の時間が長くなった。ネットでも本は読めるし、情報を得られる。むしろ効率的ともいえる
▼だが教育学者の斎藤孝さんは著書「読書する人だけがたどり着ける場所」で、ネットで文章を読む行為は「読書」ではなく、情報を「消費」しているに過ぎないと指摘する。好物を消費するように、自分が望む情報に触れているだけでは人生を深められないと説く
▼交流サイト(SNS)を使えば、必ず誰かとつながることになる。便利な一方、糸魚川市出身で批評家の若松英輔さんはこう書く。「私たちは、ひとりで、一つの場所を、深く掘る方法を忘れてしまった」。自分一人になれる…それでいて、作者と深く対話できることが読書の魅力の一つという(「本を読めなくなった人のための読書論」)
▼トラブルの原因にもなるSNSと距離を置く人もいる。今年の読書週間の標語は「私のペースでしおりは進む」。自分なりの楽しみ方を探してみたい。