食欲の秋、真っ盛りである。仕事中も口が寂しくなる。わが職場では時折「ボリボリ」と、同僚のお菓子を食べる音が響く。とはいえ、筆者をはじめ中高年には間食の取り過ぎは健康に良くない。ほどほどにせねば

▼こんな話がある。昔、清兵衛という大食漢がいた。盛りそばを何枚食べられるかで賭けをして、20枚、30枚と完食して金をもうけていた。ある時、大蛇が人を飲み込み、腹が膨らんで苦しんでいるところに遭遇する。大蛇が傍らに生えていた草をなめると、腹の膨らみが消えた

▼消化薬だと思った清兵衛は、これを使えばそばをいくらでも食べて稼げると喜んで、草を持ち帰った。ところが、そばの賭けの際に草をなめると、清兵衛自身が消えてしまった。その草は消化薬ではなく、人間を消してしまう恐ろしいものだった-

▼落語「そば清」のあらすじである。勝手な思い込みを戒めているようだ。自然界のものは何でも食べられるわけではない。県内では先ごろ、この秋初めての毒キノコによる食中毒が発生し、県は注意報を発令した

▼山の恵みを楽しめる季節だが、素人判断は禁物だ。「安全だと確信できるキノコ以外は採らない」「他人にもらった場合、少しでも不安を感じたら絶対に食べない」。こんな注意事項が本紙に載っていた

▼過去には毒キノコによる死亡事故もある。清兵衛のように、この世から消えねばならなくなるかもしれない。おいしいものには目がない人も多いだろうが、厳しく見極める目も必要だ。

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