中山間地を巡っていると、かつて田畑や山道だった場所が雑木や草で覆われているのをよく見かける。山里は人の手が入ってこそ維持されてきたことが分かる
▼山の恵みを使った郷土料理も、作り手がいてこそ。そう教えてくれる本がある。上越市内で飲食店や給食事業を営む信田紘基さんが監修した「レシピ遺産」だ。上越地域に伝わる、山のごちそうレシピを二十四節気とともに紹介する
▼信田さんは「当たり前だった料理がある日突然、姿を消すかもしれない。おばあちゃんたちが健在のうちに残したい」と本を作った。日々の食卓で四季を楽しめるよう食材の下ごしらえから解説し、みそや野沢菜漬け、刺し身こんにゃくの作り方も丁寧に説明する
▼紹介する料理は上越市の桑取谷のもの。信田さんが愛する土地だ。日本海に山並みが迫り、海岸からすぐに始まる谷筋は約15キロ。市街地から車で30分ほどのムラには山と川、そして海の恵みを生かした暮らしが残る
▼「レシピ遺産」は、これまで春夏編と秋冬編の2冊を刊行した。実りの秋は、クルミみそやそばがき、大豆の呉汁が食欲をそそる。海の幸を加えた第3弾の準備も進む
▼わが家の台所に、何カ月も前に買った干しゼンマイが眠っているのを思い出した。レシピを見ると、沸騰したお湯に入れて冷まし、もんで水を換えて…と数回繰り返す。2日ほどかかる大変な作業だ。とはいえ、うまさは市販の輸入ものとは比べものにならない。無精を反省し、郷土の味を楽しみたい。