日ごろ飲んでいる薬を受け取るため薬局を訪れた。処方箋を渡してソファで待っていると、窓口で患者とやり取りしている担当者の声が聞こえてきた。「いつものやつが入荷できなくて…。代替品をお出ししますので」

▼こんな声を耳にするようになって、どれくらいになるだろうか。医薬品の不足が長引いている。処方薬の多くを占める後発医薬品、いわゆるジェネリック医薬品について、品質不正問題で一部メーカーが行政処分を受けたために供給が滞っていることが背景にある

▼新型ウイルスやインフルエンザの流行も追い打ちをかけた。日本製薬団体連合会によると「供給停止」や「限定出荷」は今年9月時点で、全1万7682品目の22・9%に達した。厚生労働省によると、せき止め薬は感染禍前と比べ15%も供給量が低下したらしい

▼安定供給に向けて厚労省も本腰を入れる構えと聞くが、もっと早くに動けなかったか。品薄の発端がメーカーの不正だとすれば、医薬品を供給する体制の構造そのものを見直さないと解決は難しいと思わざるを得ない

▼特定の薬がなければ日常を過ごすことができない人がいる。薬が絶たれるということは、平穏な毎日が絶たれるということだ。薬の安定供給は水や食料、エネルギーと並び、私たちの暮らしに欠かせない

▼薬という字の「くさかんむり」は薬草を意味するのだろう。その下にあるのは「楽」という字。不調を抱えた体と心を楽にする薬の不足がこれ以上続くなら、何とも切ない。

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