「なぜ殺す」「かわいそう」。クマ被害が多い地域に対し、駆除への抗議電話が相次いでいるという。怒号やののしりが交ざることも。東北各県で目立つほか、本県にも届いている

▼連絡してくるのはクマ被害とは無縁の地域に住む人が多いらしい。駆除せずに済めばいいが、やむを得ないケースが多いようだ。命の危険に直面する人の立場になれば、一方的な主張はやりきれない

▼とりわけ気になるのは「クマが出没するような場所に住む方が悪い」と言わんばかりの主張もあることだ。交流サイト(SNS)などで時折目にする。地方に住むなと言っているようにさえ聞こえる

▼別の分野の問題でも似たような主張を見かけた。サッカーJリーグのシーズン移行を巡る議論である。欧州の主要リーグのシーズンに合わせる形で、開幕時期を現行の2月から8月に変える案が浮上している

▼降雪リスクがある冬場の試合が増える可能性があるなど未解決の課題が多いとして、アルビレックス新潟は反対の意思を表明した。これに対しSNSでは早期移行派から「リーグ全体の利益を考えれば降雪地の懸念はささいな問題」「雪の心配のない地域に移転すれば?」といった趣旨の投稿があった。こんな声が広がるとしたら、やるせない

▼クマ駆除もシーズン移行も、不安や懸念を抱く人の存在を切り捨てるような声が一部にある。少数者の声や立場を考慮しようとせず、丁寧な議論を置き去りにする…。そんな傾向が強まってはいないだろうか。

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