20年という「時の壁」を越え、被害者救済に道を開く画期的な判決といえる。国は、子どもを産み育てる権利をないがしろにした責任を重く受け止め、司法判断を尊重すべきだ。
旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強いられたのは憲法違反だとして、聴覚障害のある夫婦らが国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が、大阪高裁であった。
高裁は、旧法を違憲と判断した上で、国に計2750万円の賠償を命じた。
同様の訴訟は、全国9地裁・支部で起こされているが、賠償命令が下されたのは初めてだ。
焦点となっていたのは、不法行為があっても20年を過ぎると損害賠償を求める権利が消滅する民法上の「除斥期間」が適用されるかどうかだった。
一審判決は、旧法を「極めて非人道的で差別的だ」として違憲と断じた一方、損害賠償については手術から提訴までに除斥期間が経過し、権利が消滅したとして棄却した。
これに対し、高裁判決は一審同様旧法を違憲と認めた上で、除斥期間は適用しなかった。適用を認めると「著しく正義、公平の理念に反する」と踏み込んだ見解を示した。
原告らは2018年5~9月ごろに仙台訴訟や神戸訴訟などの存在や内容を知って初めて手術の違法性を認識、その6カ月以内に提訴した。
それ以前は旧法や国の施策の影響で差別や偏見が助長され、提訴に必要な情報へのアクセスが著しく困難だった。
高裁判決はこうした原告の状況にしっかり向き合ったものといえよう。「時の壁」を一律に適用しなかったことは救済への大きな一歩になる。他の裁判に与える影響も大きい。
被害者は高齢化し、裁判の途中で亡くなった人もいる。残された時間は少なく、原告側は国に上告しないよう求めている。裁判の長期化は避けるべきだ。
旧法は「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に制定され、本人の同意がなくても精神疾患や遺伝性疾患などを理由に不妊手術や人工妊娠中絶手術を認めていた。
司法が旧法を、憲法13条の幸福追求権や14条の法の下の平等に照らし違憲だとしたのは当然だ。高裁はさらに、旧法を立法した国会議員にも過失があると断じた。国会の責任も重い。
国によると、不妊手術は約2万5千人に行われ、うち1万6500人が強制という。
2018年以降、各地で国家賠償請求訴訟が起こされた一方、19年には一時金320万円を被害者に支給する法律が議員立法で成立、施行された。
しかし、今年1月末までに支給が決まったのは千件以下にとどまる。一時金が被害者の人生全体に与えた影響に見合っていないなどとして法改正を求める声も強い。
被害者は「戦後最大の人権侵害」だと訴えてきた。国は、その声にしっかり耳を傾け、救済に本腰を入れるべきだ。
