グイーンとうなり声を上げて動き回り、部屋中を巡りながら、ほこりを吸い込んでくれる。あの円盤型の掃除ロボットが登場して20年ほどたつという
▼普通の掃除機は腰が痛くなるからあれを買おう。家族は言うが、いまひとつ気乗りがしない。拙宅の部屋はコードが縦横に横切り、ソファやテレビ台、本などが乱雑に置かれている
▼いくら高性能になったといっても、ロボットにとってわが家は、未踏峰か熱帯のジャングルに挑むような状況だろう。掃除中、椅子に行く手を阻まれたり、テーブルの袋小路に入ったりして身動きができなくなることもある。そのけなげさ、不完全さがいいと、随筆「〈弱さ〉の復権」で説くのは、豊橋技術科学大学でロボットを研究する岡田美智男教授だ
▼この掃除機が働くとき、人が先回りして椅子をどかしたり、コードを片付けたりして助けてあげる。この主客転倒ぶりが逆に共同作業の満足感を味わえるというのだ。こんな発想から岡田さんは「ごみ箱ロボット」を開発した
▼ごみ箱の姿をしたロボットはヨタヨタ歩くだけで、自分ではごみを集められない。ごみに近づくだけだ。周囲にいる人は放置できず、ごみを拾って入れてやる。するとロボットはペコンと会釈する。不完全な、いわば「弱いロボット」だ
▼いまの社会は効率一辺倒で、他人の失敗に不寛容になった。正確無比な万能マシンが増える中、岡田さんが開発するロボットは私たちに共生や助け合いの在り方をそっと問うているようだ。