どの世界にも業界用語や隠語の類いはある。政界や永田町かいわいも、ご多分に漏れず多くの言い回しが存在する。このところ特に頻繁に耳にするのが「身体検査」だ

▼本来の意味は身長や体重を測定したり、所持品を調べたりすること。政界では人事に際し、候補者に実施する身辺調査のことを指す。不祥事につながる恐れのある人物をあらかじめ候補から外し、人事を実行した政権などがスキャンダルによって失速するのを防ぐ

▼小泉純一郎元首相に秘書官として仕えた飯島勲さんは、その一端を著書に記している。首相の方針に沿わない言動をしていないか、新聞記事や講演録を調べる。カネにまつわる問題がないか、政治資金収支報告書もチェックする

▼登用が有力視されたある人物は、常任委員会の委員長だった際、審議中の法案の関係業界から献金が集中していた。これは怪しい、と起用を見送ったという(「政治の急所」)

▼この言葉が注目を集めるのは、一連の調査が機能しなかった時である。一般によく知られるようになったのは2006年に発足した第1次安倍内閣の頃だ。不祥事などで閣僚の辞職が相次いだ

▼そして今また連日のように取り沙汰される。岸田内閣は昨年、4閣僚の辞任ドミノに見舞われ、9月の内閣改造後も副大臣と政務官の計3人が職を辞した。更迭された財務副大臣に至っては税金を滞納していたというからあぜんとする。内閣の一員の検査もできない政権に、国民生活への目配りなどできるのか。

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