一冊の絵本を手に取った。興味を抱いたのは本のプロがお薦めとして挙げていたからだ。先日の紙面に、村上市中心部で約130年続く老舗書店が取り上げられていた。その4代目店主が紹介していたのが「12の贈り物」という作品だった
▼シャーリーン・コスタンゾという米国人女性が自身の子どものために書いた。当初は私家版だったが、評判を呼びベストセラーになった。翻訳と絵を担当したのは「ごんぎつね」の挿絵などで知られる、新潟市中央区出身でイラストレーターの黒井健さんだ
▼誕生の瞬間に誰もが授けられた「12の贈り物」について、子どもに語りかけるように言葉が紡がれていく。文章に添えられるのは黒井さんの絵だ。人間よりずっと長生きしているであろう大木や、月に照らされた夜の海などが、優しくて繊細なタッチで描かれている
▼「贈り物」は「勇気」や「よろこび」「知恵」など。著者は、どの子どもも生まれながらに、こうした「贈り物」を与えられていると説く。読み進めると心が温かくなる
▼一方で、パレスチナ自治区ガザやウクライナの惨状も頭をよぎる。ガザの病院では、何人もの新生児が電力切れで命を落としたと報じられた。あの子たちは「贈り物」の尊さを感じる間もなく、旅立たねばならなかった
▼著者は絵本の最後で子どもに向けてこうも言う。最高の贈り物がもう一つある、と。「それはあなた自身です」。亡くなった新生児たちも、自分だけの命を抱えて生まれてきたはずなのだ。