柿をたくさんいただいた。早速皮をむいて口に入れると、見事に渋抜きされていて上品な甘みが広がった。わざわざ渋を抜く手間をかけてもらったことに恐縮しつつ、少しとろりとした舌触りも楽しんだ

▼家庭で渋を抜く際は、実のへたに焼酎などを塗ることが多いだろうか。アルコールが実の中に入ると、果実に含まれる酵素によってアセトアルデヒドに変化する。このアセトアルデヒドが渋みの正体であるタンニンと結びつく

▼タンニンは水に溶けやすいが、アセトアルデヒドと結びつくと不溶性になる。こうなると、タンニンを含む実を食べても渋みを感じなくなる。渋抜きとは言うものの、タンニンが抜けるわけではないそうだ

▼甘い柿を食べながら、ふと思う。人の心には鬼がすむという。怒りや憎しみ、他者への悪意といった鬼を、たいていの人は理性や自制心でくるむ。鬼が消えてなくなることはないが、はた目には見えにくくなる。柿のタンニンを感じなくなる渋抜きにどこか似ている

▼ところが差別的な言説を隠そうとしない人もいる。自民党の杉田水脈(みお)衆院議員は在日コリアンやアイヌ民族に関する自身の言動が法務局から人権侵犯と認定された後も、少数者への憎悪をあおる悪質なデマを拡散し続けている

▼むき出しの悪意や憎しみの行き着く先に何があるのか。パレスチナ自治区ガザの惨状を見れば明らかだ。わが心中にも数多くの鬼がのさばっていることを自覚しつつ、自制心で渋抜きすることを心がけるとしたい。

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