近くで爆撃があり、負傷者が搬送されてきた。医師はその中に自分の子どもがいることに気づいた。1人は既に息を引き取っていた。もう1人は重傷で集中治療室に収容された。そんな中でも医師はほかの患者の治療を続けねばならなかった

▼パレスチナ自治区ガザの病院で医療支援に従事し、先ごろ帰国した大阪赤十字病院の看護師、川瀬佐知子さんは同僚の医師に起きたことを語った。記者会見でガザの惨状を報告し、人道状況の改善を求めた

▼絶えず攻撃にさらされ、医療は停止し、食料の確保さえままならない。生きていくことを人の道と呼ぶならば、それさえも許されないような環境に置かれているのがガザの住民だ

▼川瀬さんは現地の医療従事者の言葉も紹介した。「自分たちがどんな悪いことをしたの? 命の重さはみんな同じはずなのに、この世界はフェアにはできていない。世界中が自分たちを攻撃している。自分たちに人権なんてない。私たちは本当にミゼラブル(惨めで不幸)だ」

▼攻撃する側にも言い分はあるだろう。だとしても、少なくとも人道に反する状況だけは何とかしなくてはならない。好転する兆しはなかなか見えてこないが、事態の改善に向けた思いを多くの人が共有することを願わずにはいられない

▼川瀬さんの会見の動画は、日本記者クラブのウェブサイトから視聴することができる。川瀬さんは国際社会にこう訴えた。「私たちは歴史的悲劇の傍観者であってはならない」。できることを探さねば。

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