今月で生誕100年を迎えたという。秋田犬の「ハチ」。忠犬ハチ公である。飼い主の死後も駅に通って帰りを待ち続けたエピソードで知られるが、同様の「忠犬」はほかにも数多くいる
▼1964年から茨城県の小学校で飼われた迷い犬「タロー」は死ぬまでの17年間、毎日近くの駅に通い続け、誰かを待っているようなそぶりを見せた。飼い主とその駅ではぐれていたという情報が浮上したのは、タローの死後ずいぶんたってからだった
▼イタリアでは2013年、飼い主の死後も教会に通う「トミー」が話題になった。前年に飼い主が亡くなった際は葬列に加わり、ひつぎのそばを離れなかった。それからはミサを知らせる鐘が鳴ると教会に行き、祭壇の前に陣取るようになった
▼戦禍が続くウクライナには、飼い主が戦闘の犠牲になった後も自宅の玄関で帰りを待った秋田犬「リニ」がいた。周囲が保護しようとしても嫌がり、新たな飼い主と信頼を築くまで1カ月以上動かなかった。ロシアでは、ソ連時代の1970年代に空港で飼い主を待ち続けた「パルマ」の逸話が有名だ
▼古くから人間と暮らしてきた犬は「人類最古の友」といわれる。人々が忠犬のストーリーに心を動かされるのは、犬が示す強固な信頼や献身性が人間社会で薄れていることの裏返しかもしれない
▼争いが絶えない人の世のありさまを思えば無理もない。本県には2度の雪崩から飼い主を救った「タマ公」がいた。犬から学べることは、きっと多いはずだが。