山道を運転していると無残に折れ、倒れた竹が目に入る。佐渡市では昨年12月、大雪により広い範囲で倒竹と停電被害が起きた。季節は巡り、また冬を迎えるが、所有者が高齢だったり島外にいたりする私有地では、倒竹の処分が進まない所がある
▼「昔は竹林が一山あれば子供を大学に出せるって言われたもんだ」。小木地区の竹細工職人、数馬昭男さん(79)は振り返る。佐渡は古くから良質な竹の産地で、竹細工が盛んだった。「金の島」佐渡は「竹の島」でもあった
▼江戸時代、多くの竹や竹製品が小木港から島外へ運び出された。大正時代には竹かごやざる作りを教える講習所ができるなど、島の一大産業に発展した。数馬さんが竹細工を始めた約60年前も、小木地区だけで親方が20~30人おり、それぞれが大勢職人を抱えていたという
▼安価なプラスチック製品の普及などで島の竹産業は衰退した。最大千人近くいたとされる職人は今は数人が残るだけ。竹林は手入れされず、荒れ放題になった。財産とみなされた往時を思うと、厄介者のように扱われる現在の姿が切ない
▼先日まで佐渡市で開かれた数馬さんの個展に足を運んだ。バッグや物入れには素朴なぬくもりがにじむ。使い込むうちに色が変わり、味が出るのも魅力の一つ。コーヒードリッパーなど、モダンな空間にも似合うデザインも目を引いた
▼一つ一つの品に、佐渡の職人が積み上げ、伝えてきた技の歴史を感じた。このまま途絶えてしまうとしたら、何とも寂しい。