「あられがこないだ降ったから、そろそろ来るかね」。86歳のおばあさんが、電話口でつぶやいた。来るというのは、雪の前触れとされる雷鳴のことだ。住んでいるその場所は、村上市雷(いかづち)である

▼旧山北町で山形県境のこの集落には30世帯弱が暮らす。「雷」の地名の由来は諸説ある。山の神様が「怒る地」と関係があるとか、豪雪の高地で雷の音が大きく響く地形のためとかとされる

▼降雪を知らせる雷は「雪起こし」が季語として広く知られる。新潟弁では、ほかに「いきがんなり(雪雷)」や「雪おろし」などと呼ぶ地域もある。雷集落は「雪雷」でなく「雪おろし」と呼ぶというから面白い

▼雪を吹き下ろす山風という意味も交ざっているのかもしれない。日本海側は冬の雷発生が突出して多い。気象庁によると、2020年の発生日数は本県が35でトップ。以下、32の石川、30の秋田が続く

▼降雪前は雷やあられが続き、天候が不安定だ。新潟市の初雪の平年値は11月26日。これからの季節の雷は「冬の一つがんなり」とも言われ、夏に比べて百倍以上のエネルギーを放つことも。特に初雪前後は要注意だ。雷は古来、その神秘性から「神の怒り」=「神鳴り」とも考えられた

▼このところの雷鳴は本県どころか、東京・永田町にとどろいていないか。相次ぐ政務三役の辞任に続き、今度は政治資金の扱いを巡って自民党5派閥が告発された。内閣支持率の急落が止まらない。「雪おろし」ならぬ「岸田おろし」の雷が落ちかねない。

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