先日まで本紙に連載された小説「佐渡絢爛」は江戸時代中期に金銀の産出が落ち込んだ佐渡を、南沢疎水道の開削により再興させようとする物語だった

▼作者の赤神諒さんは、36人が亡くなった落盤事故のミステリーや、能面をかぶった謎の侍との決闘シーンなどのアクションのほか、人情話もふんだんに盛り込んだ。毎日楽しみにしていた読者も多かっただろう。地元の高校生らが挿絵を描いて小説に花を添えた

▼小説に登場した佐渡奉行の荻原重秀は実在した人物だ。佐渡を離任した後には5代将軍・徳川綱吉の下で勘定奉行となり、幕府の経済政策を担った。代表的な政策が「貨幣改鋳」である

▼それまでの貨幣よりも金の含有量を減らし通貨の供給量を増やした。「幕府の財政破綻を救い、貨幣の流通を増やし、好景気をもたらした」。小説にこう書かれたように経済活動が活発になった。後に新井白石に批判されて、政策も見直されたものの、いわゆる元禄文化が花咲いたのは重秀の功績と言えるだろう

▼さて岸田文雄首相は昨年夏の参院選を経て、当面は大型国政選挙がなく政策に集中できる「黄金の3年間」を手中にしたはずだった。しかし黄金はすっかりなくなったようだ。重要課題に取り組もうにも支持率は低迷し、選挙がないというよりは解散できない状況に陥っている

▼危機的な財政状況や経済の立て直しが必要という点では、重秀の時代に重なる。低空飛行の岸田内閣に、もし重秀がいたなら…そんなことを夢想する。

朗読日報抄とは?