空が鉛色の日が増えていく。この季節の新潟の景色はモノトーンと言われることが多い。だからこそ、だろうか。単色の中で見つけた色彩が脳裏に刻まれることがある
▼雪の中に真っ赤な粒があった。記憶をたどると、それは幼い頃に祖父が作ってくれた雪うさぎだった。雪をこんもりと固め、ナンテンの実を目に、葉を耳に見立てて飾ると愛らしい小動物の姿になった。祖父の得意げな表情も思い出した
▼色彩心理研究家の末永(すえなが)蒼生(たみお)さんによると、色彩には人の記憶と深く結びつく側面がある。日頃はすっかり忘れていても、色をきっかけに当時の感覚や感情までも思い出すことがあるようだ
▼古いモノクロ写真をカラー化する取り組みが広がっている。色があることで、撮影時を知る人はより記憶をたどりやすくなり、当時を知らない人はその時代が身近に感じられる。長岡市では戦災に遭った当時の写真がカラー化され、反響を呼んだ
▼先ごろは、拉致被害者の横田めぐみさんの写真がカラー化された。めぐみさんが生まれたのは1964年。まだモノクロで撮影する機会も多かった時代だ。母親の早紀江さんはカラー化された写真を目にして「思い出のままの色が入っていてびっくりした」と述べた
▼長岡市の戦災写真カラー化に取り組んだ東京大大学院の渡邉英徳教授は「カラー化は当時と現在が地続きであることを気付かせ、関心を呼び起こす」と話していた。めぐみさんや早紀江さんが奪われた日常もまた、現在と地続きである。