「孝」の心を重んじる儒教が生まれたのが中国だ。伝統的に高齢者を敬う精神が強いというが、どうやら例外もあるらしい
▼「73歳、84歳。生き延びてもしょせん子どもたちのやっかいもの」。かの国には、こんなことわざがある。73歳と84歳は高齢を象徴するだけでなく、厄年のような意味もあるらしい。節目の年を迎えても…ということのようだ。中国口承文芸の研究者、千野明日香さんの著書で知った。ずいぶん失礼な言い方だが、高齢者が自虐的に口走ることもあるのだろうか
▼その中国では、高齢化が急速に進む。毛沢東が引き起こした大規模政治運動「文化大革命」(1966~76年)の時期に若者だった世代が老年期を迎え、65歳以上の人口は2億1千万人に近づく。その割合は、2021年には「高齢社会」の基準値とされる14%を超えた
▼22年末時点の総人口は61年ぶりに減少に転じた。1979年から進めた一人っ子政策の影響もあり、少子高齢化の進行は速い。2016年に同政策を廃止し、21年からは3人目の出産を奨励するようになった
▼文化大革命の混乱期に毛沢東礼賛の中で育った世代は保守的な価値観を持つ人が多いという。60歳以上の認知症患者は1500万人に上るが、認知症の知識不足からアルツハイマー型認知症を不名誉と捉える風潮もある。これが受診拒否や治療の遅れにつながっている
▼先行きはなかなか楽観できないだろう。政治や経済だけでなく、この分野でも大国の動向から目を離せない。