小学4年生の女の子には、その英語の意味が分からなかったかもしれない。「You can do it!!」。先生が書いた英語の訳が「君ならできる!!」と知った時、小さな心は、どんなにさみしく、揺れたことか

▼奈良市のこの児童は同級生に蹴られるなどいじめられていた。保護者が学校に相談してもいじめは続く。「わたしは死ねばいいのに」。児童は自習ノートにつらい思いを、絞り出すように書いて提出した。その先生の添え書きが「君ならできる!!」とは。しかも大きな花丸が付いていた

▼励ますつもりだった。教諭は弁明しているという。だが素直に受け取れば、先生に自殺を勧められたと感じるのではないか。2011年に起きた、大津市の中2男子のケースを思い出す

▼学校側は当初「自殺との因果関係は不明」と責任を認めなかった。しかし、生徒のアンケートには「自殺の練習をさせられていた」「葬式ごっこ」といった言葉まであった。この事件を契機に、いじめ防止対策推進法ができた

▼法律制定から今年で10年になる。文部科学省の調査では22年度に全国の小中高校などで認知されたいじめは約68万件。前年度から1割以上増え、過去最多だった

▼千人当たりの件数は、本県が全国平均より7割多く、暴力行為は最多だ。件数が増えたのは積極的に把握しようとした姿勢ゆえ。そんな見方もあるが、心身に傷を負う子どもが依然多いことに変わりはない。花丸を付けるなら、いじめをなくす取り組みにこそだ。

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