食わず嫌いは人生の楽しみを乏しくするから、慣れないものでも機会があれば挑戦している。県北のマタギの里でクマ肉をいただき、長野県ではザザムシを勧められた。好物にはならないにしても、それぞれの食文化を楽しめた

▼アンモニア臭いのでは、と敬遠してきたサメ料理もその一つ。上越地域の郷土料理で、地元のスーパーには切り身が並ぶ。サメを愛する上越市の郷土料理研究家、井部真理さんに感化され食べてみた。鶏むね肉のようで、なかなかの味だ

▼上越のサメ食文化は江戸時代の古文書にも登場するという。井部さんに教えてもらった。江戸幕府の8代将軍である徳川吉宗が取り組んだ享保の改革とも関わりがあるらしい

▼新田開発が進んで川のそばが開墾された結果、水害が頻発した。大雪や地震も重なり、食うに困った庶民はサメを食べるようになった。さらには高田藩がフカヒレの中国輸出を奨励したこともあり、サメ肉が大量に出回るようになったという。「風が吹けばおけ屋がもうかる」のようで興味深い

▼上越ではサメを年越し魚にする風習があり、12月27日に年末恒例の競りがある。この時期のスーパーでは迫力ある頭部が販売されることも。大量の煮こごりを作り、隣近所にお裾分けする人もいるそうだ

▼インターネットのサイト「さめディア」も運営する井部さんは、全国に根付くサメ食文化が集うサミットを開くのが夢だという。何とも楽しそうではないか。サメだけにあながちフカ能ではないだろう。

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