今年は映画監督、小津安二郎の生誕120年、没後60年に当たる。筆者は特に映画好きではないが、その作品が海外でも高い評価を受け「世界のOZU」と呼ばれることは知っていた。ローアングルにこだわり、多くの映画監督に影響を与えたという

▼1本見てみることにした。サンマの旬は過ぎたけれど、遺作「秋刀魚の味」のDVDを手に取った。笠智衆さん演じる初老のサラリーマンが妻を亡くした後、一家を切り盛りする娘の結婚を心配するストーリーである

▼「男はつらいよ」では法衣姿の笠さんは、三つぞろいのスーツが意外に似合った。娘役の岩下志麻さんは「極道の妻たち」では豪華な着物をまとっていたが、エプロン姿がとても新鮮だった。ただし、この作品のどこが良いのか、説き明かすのは難しい

▼気になったのは、約2時間の作品の中でサンマを買うシーンも、サンマを焼くシーンも、サンマを食べるシーンも見当たらなかったことだ。念のためにDVDを2回見返したが、やはりなかった

▼サンマが登場しない理由をインターネットで調べてみようとノートパソコンを開きかけてやめた。作品が公開された60年前は、ネットもパソコンもスマートフォンもなかったはずである。当時の観客たちと同じように、自分の頭で考えてみようと思った

▼「何でもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う」。小津はこんな言葉を残した。筆者にとっての「謎」を解く手がかりになるだろうか。

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