拙宅の周囲にはびっしりと霜が降りていた。きのう朝、この季節には珍しく晴れ渡り、地表の温度が奪われた。少し前までの猛暑との落差を思う

▼「秋霜烈日」という熟語が脳裏に浮かんだ。中国からもたらされた言葉といい、大陸では秋の霜も相当の寒さなのだろう。日本では今の季節の方がしっくり来る気がする。冷たい霜と強烈な日差しはどちらもこたえる。転じて、この熟語は刑罰や権威が非常に厳しいことを表す

▼厳正な姿勢が求められることから検察の職務を象徴する言葉とされる。検察官のバッジは紅色の旭日に菊の白い花弁と金色の葉をあしらう。その形が霜と日差しの組み合わせに似ているため「秋霜烈日のバッジ」と呼ばれているようだ。検察庁のウェブサイトにこんな解説がある

▼疑いをかけた相手にはこうした姿勢で臨みながら、自らの危うさには目をつぶったのか。大川原化工機の社長らの起訴が取り消された外為法違反事件を巡り、東京地裁は警視庁公安部の逮捕と東京地検の起訴を、いずれも違法と断じた

▼必要な捜査は尽くされず、疑いをかけられた人は冤罪(えんざい)に基づいて長期間にわたり拘束された。社会の治安をつかさどる捜査機関への信頼が大きく揺らぐ事態だ

▼一方、検察は選挙や政治資金を巡る事件で政界に切り込む。きのうは公選法違反の疑いで前法務副大臣を逮捕した。こちらで成果を挙げたからといって、違法な捜査の罪深さが薄れることはないが、真の秋霜烈日が貫かれるかを国民は見ている。

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