今夜は除夜の鐘に耳をそばだてる方もいるだろう。きのうの本紙は、県内の各種取り組みを紹介していた。大みそかの伝統行事のようなイメージがあるが、定着したのはさほど昔のことではないらしい

▼もともと中国では「除夜」は節分や冬至の前夜を指した。いつのまにか新年を迎える前の晩、つまり大みそかの夜を意味するようになった(橋本芳契「仏教語入門」)。ただ、大みそかの夜に鐘を突く行事が定着した経緯は、はっきりしないようだ

▼NHKが広めたという説がある。「江戸歩き案内人」を名乗る作家の黒田涼さんが著書「美しいNIPPONらしさの研究」で紹介している。NHKは1925年にラジオ放送を開始してほどなく、除夜の鐘の中継を始めた。黒田さんは、一部の寺の習慣がラジオによって全国に広まったとみる

▼鐘の音を聞いて年の変わり目を実感する。そうした感覚がしっくり来る人が多かったのだろう。新年を迎えるに当たり、旧年の労苦を除きたいという思いは、誰しも抱くのかもしれない

▼悪い出来事は終わりにしたい。ウクライナやパレスチナ自治区ガザの戦火は旧年中に消し止めたかった。猛暑によるコメの品質低下は繰り返したくない。猛烈な物価高はもう勘弁してほしい

▼終わりにしてはならぬものもある。政治資金パーティーを巡る事件は真相解明が新年に持ち越された。政界浄化に向けた議論はこれからだ。旧年の来し方と新年の行く末。それぞれを思いながら鐘の音を聞くことにする。

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