1945年8月の長岡空襲を前に、米軍は「伝単(でんたん)」と呼ばれる宣伝ビラを空から投下した。長岡市を含む都市名が並び、数日内に何カ所かを爆撃すると予告した。米国の敵は日本国民ではなく、国民を戦争に引きずり込んだ軍部だとも訴えた

▼敗戦が不可避という現実を知らせ、これ以上の抵抗は無意味と悟らせる情報戦の一環だったのだろう。当時の日本国内では、伝単を拾ったら当局に届けることが義務づけられていた。違反すると厳罰に処せられた

▼客観的な事実を知ることは正しい判断を下すために不可欠だ。一方、多くの国民が事実を知ることは不都合だと考える権力者もいる。当時、戦争を継続しようと主張した人間たちがそうだった。そんな構図は現代でもさして変わらない

▼ウクライナを侵攻したロシアが国内の情報統制を強化している。軍事行動に関する「偽情報」を拡散した場合は、最長15年の懲役刑を科すとした。曖昧な規定で、恣意(しい)的な運用もできるらしい。フェイスブックやツイッター、西側メディアへのアクセスも遮断した

▼複数の国外メディアは記者拘束のリスクを懸念し、ロシアでの活動停止を決めた。ただ、一連の強権的な姿勢は、ウクライナでの事実が拡散することをロシア政府が恐れている裏返しともいえる

▼第2次世界大戦の頃と違って、個人が情報をやり取りするハードルは格段に下がった。少なくとも、国民を事実から遠ざけようとするプーチン政権の無法な姿勢は内外の人々の脳裏に刻まれた。

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