好循環への期待が高まる力強い回答が相次いだ。この流れを、中小企業の賃上げにも波及させなくてはならない。

 2024年春闘は、主要製造業の集中回答日となった13日、労働組合の要求に対する満額回答が相次ぎ、過去最高水準となる賃上げの動きが広がった。

 自動車大手は、トヨタ自動車が1999年以降で最高水準となる満額で回答し、日産自動車も満額回答で足並みをそろえた。

 鉄鋼大手の日本製鉄は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)相当分で、労組要求を上回る高額回答を示した。電機、重工の大手各社も要求通りの額を答えた。

 歴史的な物価高が続く一方で、物価変動を加味した実質賃金は、1月の調査で22カ月連続のマイナスとなり、物価上昇に賃金の伸びが追い付かない状況にある。

 大手各社の満額回答は、十分な賃上げを実現し、好循環を生み出すための一歩といえる。

 大事なのは、賃上げの流れを大企業にとどめずに、地方に多く、雇用の7割を占める中小企業へ広げることだ。

 地方経済が活力を取り戻すことは、日本経済の再生に不可欠で、中小企業が賃上げで追随できなければ格差の拡大を招きかねない。

 物価高に加え、深刻な人手不足が続いていることも、企業に賃上げを促す要因になっている。

 昨年12月の日銀の企業短期経済観測調査(短観)では、雇用人員判断で「過剰」と答えた割合から「不足」の割合を引いた指数は、大企業でマイナス25、中小企業はマイナス38となった。

 人手不足は中小企業ほど切実で、業績が改善しなくても、従業員をつなぎ留めるために「防衛的賃上げ」を余儀なくされている。

 中小企業が賃上げを実現するには、人件費を含むコスト上昇分を適正に取引額に上乗せする価格転嫁が肝要で、発注側が価格交渉に応じることが欠かせない。

 しかし、日産自動車が自動車部品メーカーなど下請け業者への支払代金を不正に減額した悪質な実態が明らかになった。

 下請けいじめといえる行為で、公正取引委員会が再発防止を勧告したのは当然だ。発注側と下請けの力関係を物語るものだろう。

 下請け企業が立ちゆかなくなれば、発注側にも影響する。発注側は、中小企業が賃上げを実現し人材を確保することが、自らの事業継続にも関わることを認識し、価格交渉に応じてほしい。

 労働組合の全国組織である連合は、今春闘で5%以上の賃上げを要求している。

 中小企業の春闘は4~5月に結果が出る。経営側には前向きな交渉を望みたい。人手不足の中で、賃上げを持続性のあるものとするために、収益力の向上をどう図るかについても考えていきたい。